AIチャットツールを日々の業務や調べ物で使っていると、「毎回同じ前提ルールや出力形式をプロンプトに入力するのが少し手間に感じる」という場面によく遭遇します。そうした日常のちょっとした手数を減らしてくれるのが、Google GeminiのカスタムAI作成機能である「Gem(ジェム)」です。
Gemを活用すると、あらかじめ特定のキャラクターや回答のルール、出力のテンプレートを設定しておき、いつでもその設定が適用されたチャットを開始することができます。以前のGeminiでは、こうしたカスタマイズ機能は有料プランでのみ提供されていましたが、現在は無料版のユーザーでも広く作成・利用できるようになり、誰でも手軽に試すことができる機能となっています。
今回は、このGem機能の基本的な仕様や、他社の主要なAIツールとの違いについて整理し、さらにアクセスをよりスムーズにするためのちょっとした工夫や実用的なプロンプトのサンプルを交えながら、日々の作業を少しだけ軽やかにする方法をご紹介します。
1. Geminiの「Gem(ジェム)」機能とは?
Gemは、Geminiに特定の「役割(システムプロンプト)」や「指示」、「制約条件」をあらかじめ覚えさせておき、特定の作業に特化した自分専用のチャットボットとして保存できる機能です。毎回「あなたはプロの編集者です」や「箇条書きで簡潔に出力してください」といった指示を書く必要がなくなるため、入力時の手間や認知的な負担を減らすことができます。
たとえば、外国語の翻訳、プログラミングコードのチェック、文章の校正、特定のフレームワークに基づいたビジネスプランの壁打ちなど、繰り返し発生する定型タスクにおいてその便利さを実感することができます。指示内容をあらかじめパッケージ化しておくことで、チャットを開いた瞬間からすぐに本題の質問を投げられるのが大きな利点です。
無料版と有料版(Gemini Advanced)の違い
現在、Gemの作成自体は無料版のGeminiでも可能ですが、使用できるAIの性能やプランによる制限にはいくつかの違いがあります。実際に運用する上で知っておくと便利な違いをまとめました。
- ベースとなるAIモデルの差: 有料版のGemini Advancedでは、より複雑な論理的推論や高度な分析を得意とする最上位モデルが適用されます。無料版でも十分に実用的な処理が行えますが、長い文章の解析や高度なプログラミングの相談では、有料版のほうがより安定した回答を得られる傾向があります。
- リクエスト回数の制限: 無料版でGemを利用する場合、一定時間内の利用回数に制限が設けられることがあります。頻繁にやり取りを行う場合は、有料版のほうが回数上限が緩和されており、待ち時間が発生しにくいという違いがあります。
- プライバシーとデータの扱い(重要): 無料版でGeminiを利用する場合、入力したチャット内容がAIの学習やサービス向上のためにGoogleのスタッフによってレビューされたり、トレーニングに活用されたりする可能性があります。そのため、社外秘の情報や個人情報、機密データをGemに入力することは避けるのが賢明です。機密性の高い業務で本格的に導入する場合は、データの安全性が確保された企業向けのプラン(Google Workspace用のGeminiなど)の利用を検討されると安心です。
2. 自分専用にカスタムする!Gemの基本的な作り方
Gemの作成は、Webブラウザ版のGeminiから非常にシンプルな手順で行うことができます。まずは簡単なルールを設定したGemを1つ作ってみることで、その仕組みを体験することができます。
ステップ 1: Gemマネージャーを開く
Geminiのメイン画面の左側にあるメニュー(サイドバー)を展開し、「Gemマネージャー」の項目をクリックします。
ステップ 2: 「+ Gemを作成」を選択
管理画面が表示されたら、「新規作成」または「+ Gemを作成」ボタンをクリックします。ここで、作成するGemの「名前」と、親しみやすい「アイコン」を選択します。用途に合わせた分かりやすい名前をつけておくと、後から見返しやすくなります。
ステップ 3: 「指示」を記述して保存
「指示」と書かれたテキストボックスに、AIに守らせたい具体的な役割、ルール、出力のフォーマットを記述します。指示の記述が終わったら、「作成」または「保存」をクリックすることで、自分専用のGemが一覧に追加されます。
指示を記述する際のコツとして、「あなたは〜です(役割)」「以下の条件を必ず守ってください(制約)」「〜の形式で出力してください(出力形式)」といったように、項目ごとに整理して明確に書くことで、AIが指示を誤解しにくくなり、回答の質が落ち着きやすくなります。
3. 【Tips】呼び出しの手間を減らす「ブラウザのブックマーク」活用法
Geminiは使いやすさを向上させるために画面のデザインが頻繁に改修されますが、その影響で、以前のように「よく使う特定のGemをサイドバーの目立つ場所にピン留めしておく」という操作が少し難しくなることがあります。
現在、自作したGemを使ってチャットを始めようとすると、サイドバーを展開して「Gemマネージャー」の一覧から探したり、入力欄の「+」ボタンから毎回呼び出す必要があったりと、チャット開始までにいくつかの手数がかかります。毎日何度も使うツールだからこそ、アクセスのステップはできる限り削りたいところです。
そこで個人的に試してみて便利だと感じたのが、「作成したGemのチャット画面のURLを、そのままブラウザのブックマークに保存しておく」というシンプルな工夫です。
実は、作成したGemをクリックして新規チャット画面を開いたとき、ブラウザのアドレスバーには以下のような固有のIDが含まれたURLが表示されています。
https://gemini.google.com/gems/[各Gem固有の英数字ID]
このURLを開いた状態のままでブラウザのブックマーク(お気に入りバーなど)に保存し、名前を「Gem:文章校正」や「Gem:翻訳アシスタント」のように分かりやすく整理しておきます。すると、次回からはGeminiのトップページを経由してメニューを探すことなく、ブックマークをクリックするだけで、該当のGemの設定が適用された新規チャットが一発で立ち上がります。
ブラウザのブックマークフォルダを活用して「AIツール」などのフォルダにまとめておけば、よく使う複数のGemへワンクリックでアクセスできるようになり、メニューを探索する手間がなくなります。とても手軽に設定できますので、Gemの起動をよりスムーズにしたい場合にはおすすめの方法です。
4. ChatGPTやClaudeとの違いは?カスタムAI機能の比較
Geminiの「Gems」と同じように、主要なAIサービスにもそれぞれ自分専用のカスタムAIを作る機能が用意されています。ChatGPTの「GPTs」、そしてClaudeの「Projects」が代表的です。これらの機能には、無料プランでの利用制限や得意分野においていくつかの違いがあります。手元のタスクに応じて使い分けるための比較をまとめました。
| 機能名(提供サービス) | 無料プランでの作成 | 得意な用途と特徴 | データの共有範囲 |
|---|---|---|---|
| Gems (Google Gemini) | 作成・利用ともに可能 | Googleアカウントだけで手軽に作成可能。シンプルな設定画面で、定型指示の型化やGoogleサービスとの連携に向いています。 | リンクによる個別共有が可能。 |
| GPTs (ChatGPT) | 利用のみ可能(作成は有料) | 外部APIとの連携や画像生成(DALL-E)、公開用の「GPTストア」を通じた世界中のツール利用など、拡張性が非常に高いのが特徴です。 | ストアを通じて全体公開、またはリンク共有が可能。 |
| Projects (Claude) | 作成・利用ともに可能(制限あり) | 大量のソースコードや資料PDFなどをプロジェクト内に登録し、その文脈を深く理解させた上での回答やコーディング支援が得意です。 | 基本的に個人利用、またはチームプラン内での共有。 |
この比較から分かるように、「無料プランのままで、自分専用のカスタムAIを自作して使いたい」という場合には、Geminiの「Gems」やClaudeの「Projects」が有力な選択肢になります。特にChatGPTの「GPTs」は作成に有料プランへの加入が必要なため、Googleアカウントがあればすぐに自作を始められるGeminiのGemsは、導入のハードルが非常に低い点が魅力だと感じています。
5. 実務で試してみたカスタムGemのプロンプトサンプル
ここでは、私が日常の調べ物や文章作成で実際に作成して活用している2つのプロンプトの記述内容をご紹介します。Gemsの新規作成画面にある「指示」の部分にコピー&ペーストして微調整するだけで、ご自身の環境でも同じように動作させることができます。
サンプル①:YouTube解析・学習用サポートGem
YouTubeの動画URLを渡すだけで、動画内のトピックを細かく分解し、網羅的な講義風のテキストを作成してくれる指示です。内容の要約で終わらせず、動画内で語られた数値や事例をできるだけ省略せずに拾い上げ、最後に簡単な確認問題を提案する構成にしています。
※実際に使っていると、このGemは家庭教師としての設定が効きすぎているのか、時折少し熱心すぎる親身な口調になるという面白い癖が見られます。情報の整理や見落としの防止において、個人的にはとても役立っている設定です。
あなたは「客観的かつ丁寧な専属の学習サポーター」です。ユーザーからYouTubeの動画URLや特定のトピックを受け取ったら、以下の手順に沿って詳細な情報の書き出しと理解度テストを行ってください。
## 1. 動画の網羅的な解説(安易な要約は避ける)
ユーザーから動画URLが提示された場合、可能な範囲で情報を取得し、以下のステップで詳細に出力してください。
※動画全体の流れや重要な論点を見落とさないよう、時間はかかってもよいので網羅的に記述してください。
### ステップ1:全体の構成(目次)
- 動画の開始から終了までに扱われている論点やトピックを、時間(可能な場合)と項目名の形式で一覧に整理してください。
### ステップ2:詳細な解説
ステップ1で整理した項目すべてについて、動画の内容に沿って詳しく説明してください。
- 具体的な数値や事例: 話者が提示した具体的なデータや具体例は、省略せずにそのまま引用して説明に含めてください。
- 分かりやすさの補足: 専門用語が出てきた場合は丁寧な補足説明を添え、なぜそれが重要なのかという背景も併記してください。
---
## 2. 理解度テストの提案
解説の最後に、必ず以下の文章でユーザーにクイズの作成を提案してください。
「こちらの内容について、理解度を確かめるクイズを作成しましょうか?」
---
## 3. クイズの作成ルール(ユーザーが希望した場合)
ユーザーがテストの実施を希望した場合は、以下の手順で問題を作成してください。
- チャット内に直接テキストで問題を出力することは避け、Geminiのドキュメント作成機能(Canvas機能など)を使用して、インタラクティブに回答を選択または入力できる形式で「演習問題(Practice Problems)」を作成してください。
サンプル②:親しみやすい社内文章添削Gem
こちらは、SlackやTeamsなどのチャットツールで同僚や他部署のメンバーにメッセージを送る際、丁寧でありながらも硬すぎず、マイルドなトーンに文章を整えたいときに重宝しているGemです。ビジネス敬語にありがちなよそよそしい表現を抑え、フラットで風通しの良いコミュニケーションを支える文章にリライトしてくれます。
# 役割と目的
あなたは、社内のメンバーと円滑で心理的距離の近いやり取りを行うための、文章添削アシスタントです。
入力された文章の用件を維持しながら、堅苦しすぎる表現をマイルドな丁寧語(です・ます調)に整えてください。
# 制約条件
- 避ける表現: 「存じます」「恐縮です」「幸甚に存じます」といった、社内メンバーに対して過度に堅苦しくよそよそしい印象を与える謙譲語・尊敬語は使用しないでください。
- トーンの調整:
- 相手への敬意は保ちつつ、距離感の近いフラットな丁寧語を基本とします。
- 何か指摘や確認を行う際は、「〜かと思います」「〜でしょうか」といった、柔らかい推測や確認の表現を選び、角が立たないようにします。
- 簡潔さ: 挨拶文や不要な前置きは含めず、リライトした要件の部分のみを1〜2文で分かりやすく出力してください。
- 出力形式: プレーンテキストのみで出力します。
メールのようなかしこまった挨拶が不要なチャットコミュニケーションにおいて、「要件はしっかり伝えたいけれど、冷たい文面になっていないか心配」という絶妙なバランスを取る際に、とても重宝している設定です。
6. まとめ:Gemの作成を通して見えてくる「自分の仕事の整理」
Gemを作成するプロセスは、実は「自分自身の普段の仕事の進め方や、AIへの指示の出し方を言語化する」という作業そのものでもあります。「自分はAIに対して、いつもどんなフォーマットで出力を求めているのか」「どのような条件が揃っていると作業が進めやすいのか」を客観的に見直す良い機会になると感じています。
ただなんとなくチャットAIにその都度指示を送るのではなく、よく繰り返す指示パターンをGemとして一度テンプレート化し、さらにそれをブラウザのブックマークに登録してアクセスを簡略化する。こうした小さな工夫を積み重ねていくことで、AIをより身近な作業パートナーとして馴染ませていくことができるのではないでしょうか。
まずは日頃よく使うちょっとした定型指示を1つ、Gemに登録してみるだけでも、普段の入力作業の手数が減っていく面白さを実感できると思います。ご自身のよく行う作業に合わせて、色々と試してみることをおすすめします。