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部下や家族のモチベーションを下げないための4つの原則

部下や子ども、あるいはパートナーのやる気が感じられないとき、どうすればモチベーションを引き出せるだろうかと頭を悩ませることは少なくありません。もっと熱く語りかけるべきか、あるいは何か具体的なご褒美を用意すべきか。しかし、他人のモチベーションを外部からコントロールしようとすること自体が、実はすれ違いの始まりなのではないでしょうか。

自分自身も、メンバーのモチベーションをどうにかして高めようと躍起になっていた時期がありました。ですが、その試みは空回りすることが多かったです。結論から言うと、相手のモチベーションを無理に引き上げる必要はありません。本当に大切なのは、相手のモチベーションを「下げないこと」だという点に行き着きました。

人のやる気というものは、本来とても不安定で、プライベートや日々の小さな出来事に左右されやすい性質を持っています。前日に些細なことで言い争いをしたり、飼っているペットの体調が少し悪かったりするだけで簡単に下がります。一方で、楽しみにしていたイベントのチケットが取れたというだけで一気に高まることもあるでしょう。

このように、個人の生活や体調によって激しく上下する感情を、他人が完全にコントロールして常に高い状態に維持させるのは、ほぼ不可能です。だからこそ、私たちが意識すべきなのは「余計なストレスを与えて、相手のやる気をこれ以上下げないこと」に尽きます。やる気を高めるのには時間と労力がかかりますが、それが下がるのは一瞬です。しかも、その原因の多くは、身近な人の何気ない一言や行動に潜んでいます。

気になって調べてみると、心理学の分野では非常に有名な理論に出会いました。1959年にアメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグ(Frederick Herzberg)が提唱した「二要因理論(動機づけ・衛生理論)」です。この理論によると、仕事に対する満足感を引き起こす「動機づけ要因」と、不満を引き起こす「衛生要因」は、まったくの別物なのだそうです。

つまり、どれだけ褒めたり、インセンティブを与えたりして「動機づけ要因」を刺激したとしても、日頃の不満(衛生要因)が解消されないままだと、やる気は簡単に削がれてしまいます。他人のやる気を無理にコントロールしようとするのをやめ、まずは「余計な言動で相手のモチベーションを下げないこと」に専念する。そのために日常の中で気をつけておきたい4つのアプローチについて、具体的な失敗談も交えながら整理しました。

言っていることとやっていることが違うと、周囲の信頼が削られる

周囲を最も落胆させるのが、発言や態度のブレです。その場の思いつきや感情でルールが変わったり、自分には甘く相手には厳しい基準を押し付けたりすると、相手の信頼は失われます。

  • 職場において:昨日は「この方針で進めてほしい」と言われたから1週間かけて準備したのに、翌日には「なぜ別のやり方にしなかったんだ」と理由の説明もなく怒られる(朝令暮改)。
  • 家庭において:子どもに「スマホばかり見ていないで勉強しなさい」と言いながら、自分自身はソファで横になってスマートフォンを眺めている。

心理学的にも、人は相手の「言葉」ではなく「行動」を見て判断します。自分自身も、かつてチームに向けて「これからは残業を減らして早く帰ろう」と呼びかけながら、自分自身が一番遅くまで残って仕事をしていた時期がありました。言葉では「早く帰れ」と言っていても、本人が残っていれば、周囲は「結局、早く帰れる雰囲気ではないな」と感じてしまいます。これでは呼びかけの効果がないどころか、不信感を生むだけだったと反省しています。

ルールや方針が二転三転したり、言行不一致な態度を目にするにつれ、相手は「何を信じればいいのかわからない」「真面目に取り組むだけ損だ」という徒労感を抱くようになります。この徒労感こそが、やる気を底なしに引き下げる原因になります。

話を最後まで聞かずに否定から入ると、相手は黙り込んでしまう

相手が相談や提案を持ってきたとき、最初の一言には注意が必要です。パソコンやスマートフォンの画面を見たまま生返事をするのは避けるべきですが、それ以上に避けたいのが「相手の話を途中で遮って否定から入ること」です。

  • 職場において:部下が新しいアイデアを持ってきたときに、「いや、そのやり方は予算的に難しいよ」「でも、前にも同じような方法で失敗したから」とすぐに遮って却下する。
  • 家庭において:パートナーが「今日こんなことがあって困った」と話し始めたときに、「でも、それって自分も悪かったんじゃない?」と、相手の気持ちを聞く前にアドバイスという名のダメ出しをする。

こうした「でも」「いや」「だって」といった否定的な言葉を、私たちは無意識のうちに使ってしまいがちです。せっかく考えて持ってきた提案や、共有したかった出来事を瞬時に否定されると、相手は「どうせ言っても無駄だ」という諦めを抱くようになります。これが繰り返されると、自発的なコミュニケーションは途絶えてしまうでしょう。

エドワード・デシ(Edward Deci)らが1970年代から提唱している「自己決定理論」によれば、人間の内発的なモチベーションには「関係性(他者と結びついている感覚)」や「有能感(自分には能力があるという感覚)」必要とされています。話を途中で遮って否定することは、「あなたの考えには価値がない」と伝えることに等しく、これらの欲求を著しく阻害します。

まずは最後まで話を聴くこと。そして、一旦は「そう思ったんだね」と受け止める。このプロセスを省略しないことが、相手の意欲を下げないための基本です。

成果は自分の手柄にし、ミスは相手の責任にするダブルスタンダード

物事がうまくいったときと、失敗したときで態度を変える姿勢も、信頼を激しく損ねる要因です。

  • 職場において:プロジェクトが成功したときは「自分の指導のおかげ」とアピールし、失敗したときは「部下の確認不足だ」と責任を押し付ける。
  • 家庭において:子どもが良い点数を取ったら「自分の遺伝子が良いから」と喜び、悪い点数だった場合は「教育が悪い」とパートナーを責める。

周囲は、こうした他責の姿勢を非常に敏感に察知しています。トラブルが発生したときに責任だけを押し付けられ、原因を一緒に振り返って改善しようとする姿勢が見られないと、相手は「この人は自分をサポートしてくれない」と感じます。信頼関係が崩れてしまった状態で、どんなに「頑張ろう」と声をかけても、言葉が届くことはありません。

任せると言いながら細部まで口を出す過干渉

「今回の仕事は任せるよ」「今日の夕食作りは任せるね」と口では言いながら、相手のやり方に細かく干渉してしまうことがあります。いわゆるマイクロマネジメントです。

  • 職場において:メールの宛先(CC)に自分を必ず含めるよう指示し、少しでも進捗が遅れるとすぐに割り込んで主導権を奪う。
  • 家庭において:パートナーが担当してくれた掃除の進め方に対して、「なぜその手順でするの?」「そこまだ汚れているよ」と細かく指摘する。

ダニエル・ピンク(Daniel Pink)の著書『DRIVE(モチベーション3.0)』でも、現代におけるモチベーションの源泉として「自律性(Autonomy)」の重要性が強く語られています。仕事や作業のやり方に細かく干渉され、過度な監視下に置かれると、人間は「自分で考える意味がない」「指示された通りにだけ動けばいい」と判断するようになります。周囲の人間が指示待ちになって主体性を失っていく原因の多くは、実はこの過干渉にあります。

任せると決めたのであれば、方法やプロセスの主導権をしっかりと相手に預け、多少の失敗があっても一歩引いて見守る忍耐強さが求められます。口出しをぐっとこらえるのは、言うほど簡単ではありませんが、相手の成長とやる気を守るためには欠かせないステップです。

部下や家族のやる気を下げないための言い換えリスト

日常の会話の中で、意図せずに相手の意欲を奪ってしまわないよう、よくあるNG言動を「下げない言動」に言い換えるアプローチを整理しました。

シチュエーション やる気を下げるNG言動 やる気を下げない言い換え例
職場
相談や提案を受けたとき
「いや、それは難しいよ」
「でも、前にも失敗したから」
「なるほど、新しい視点だね。具体的にどんな手順で進めるイメージかな?」
職場
指示や方針が変わったとき
「なぜこれを作っているの? AではなくBだよ(理由の説明なし)」 「すまない、急遽プロジェクトの優先順位がBに変わったんだ。というのも……」
家庭
子どもが課題に苦戦しているとき
「なぜこんな簡単な問題も解けないの。ちゃんと授業を聞きなさい」 「どのあたりで考えが止まってしまったかな? 一緒に最初から見てみよう」
家庭
パートナーが家事をしてくれたとき
「あ、そこまだ汚れているよ」
「なぜこの洗剤を使ったの?」
「掃除をしてくれてありがとう。とても助かるよ。(直してほしい点があれば、後で穏やかに伝える)」
共通
ミスが起きたとき
「なぜこんなミスをしたんだ。確認不足だよ」 「トラブルが起きてしまったね。まずはリカバリーを急ごう。そのあと、再発防止のために原因を一緒に探らせてほしい」
共通
仕事を任せるとき
「進捗は毎日細かく報告して。メールの宛先には必ず私を入れて」 「基本的にはあなたの進め方で進めてみて。困ったことがあればいつでもフォローするから声をかけてね」

まとめ:自分のコミュニケーションの「引き算」から始める

誰かのモチベーションを無理に奮い立たせようとして、熱弁を振るったり、特別な報酬をぶら下げたりする必要はありません。本当に必要なのは、相手の意欲を削ぎ落としているマイナス要因(不用意な一言、気まぐれなブレ、過度な監視)を、人間関係の中から丁寧に取り除いていくことです。相手への要求を増やすのではなく、自分自身の余計な言動を減らすという「引き算」の関わり方が重要だと気づきました。

忙しい日や心に余裕がないときは、どうしてもパソコンの画面を見たまま生返事をしてしまったり、良かれと思って先回りして口出しをしてしまったりしがちです。相手のモチベーションを下げないための取り組みは、他者を変えようとするのではないです。自分自身の日常のちょっとした振る舞いを少しずつ見直すことから始まるのかもしれません。